国立公園行きの船着場、クアラ・テンベリンに着いたとき、午後一時を少し回っていた。一軒しかないレストランで遅めの昼食をとる。潅水している相手の低木に、淡紅色の五弁小花が愛らしく、小枝をつんで皆に見せる。ボンテンカ(Urena
sinuata)の仲間と思われた。ボンテンカは四国から九州に分布し、葉はヤツデ状だが、ここの種類は、葉が深裂せず長葉である。このタイプは、西西表浦内川上流で目撃したことがあった。オオバボンテンカ(Urena
lobata)はハイビスカスの近縁種で、アオイ科である。
出発は午後二時、これより川船で約三時間、テンベリン川を59km遡る。船は一応屋根付の10人乗りで、船外機のヤマハも快調、川風が心地よい。汗で上着までグッショリ濡れた衣服を乾かすのに都合がよい。川中に突き出るように、熱帯の樹木が繁る中に、幹から葡萄状に果実を垂らしている植物が目につく。熟した果実はちょうど、巨峰位の大きさで紅く美しい。フサナリイチジク(Ficus
glomerata)の和名がある。フサナリイリジクはヒマラヤ山麓からスリランカ、タイ、ミャンマー、マレー諸島に分布する常緑高木で約20mになる。仏典では、優曇華として有名で、ウドンゲの花は3000年に一回開花するといわれ拘那含仏はこの木の下で成道したという。困難の代名詞としても日本でも用いられ、講談でお馴染みの敵討ちの口上に「・・・・・・敵を探し幾十年、苦難苦節の優曇華の花、神のご加護か仏の導、ここで合ったが百年目、いざ尋常に勝負・・・・・・」に使われてきた。花が開くときは、金輪王が出現すると伝えられ、敵討ちの手助けをすると信じられてきた。
つづく
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